laguwind’s blog

しばらくはジャンルを絞らず関心のあることを書いていきたいと思っています

将棋界の運命が決まる歴史的な竜王戦七番勝負が始まる

事実上到来した藤井時代だが・・・

ユウ 本日の9時から竜王戦七番勝負(豊島竜王 VS 藤井三冠)が始まりますね。どんな将棋になるか本当に楽しみですね。

コウジ 藤井三冠は、先日の叡王戦五番勝負でフルセットの末、豊島竜王叡王から叡王位を奪取し、三冠となった。将棋界のトップに君臨する渡辺名人と豊島竜王から、それぞれタイトルを奪取・防衛したことで、事実上、藤井時代が到来したと言っていいと思う。今回の竜王戦は「事実上」が外れるかの戦いになる。そして、トップタイトルである竜王を、豊島竜王が死守できるかで、将棋界の運命が決まるといっても過言ではないと思う。

ユウ 運命が決まるだなんて大げさだなあ。

コウジ もし藤井三冠が竜王位を獲得すれば、トップタイトルを獲得するとともに、冠数で渡辺名人(三冠)を超えるので、将棋界の序列が一位となり、名実ともに、将棋界のトップに君臨するわけで。そうなったら、もう藤井三冠を止められる人はいなくなる。

ユウ 渡辺名人がいるじゃない?

コウジ 渡辺名人は藤井三冠から棋聖を1勝3敗で奪取され、今年の挑戦手合いでは藤井王位に3敗しストレートでタイトル防衛された。今の藤井三冠は、渡辺名人を完全に圧倒している。今後勝ち目はないと思う。渡辺名人のタイトルが奪われるのも時間の問題ではないかと思う。

ユウ 先日の棋王戦トーナメントは、藤井三冠が斎藤八段に敗れてしまって、今年度の棋王獲得はなくなったね。ちょっと残念だったね。

コウジ さすがの藤井三冠も対局続きで、という意見もあるけど、あの対局は斎藤八段の強さが光った一局だった。そして、斎藤八段に敗れた対局以外は圧倒的な強さで他の棋士を全く寄せ付けていない。今年、藤井三冠は早指し戦を除くと、30勝6敗であり、勝率8割3分と恐るべき成績だ。6敗の内訳は、3敗が豊島竜王、残りは深浦九段、稲葉八段、斎藤八段。つまりたった4人の棋士にしか負けていない。恐ろしいとしか言い様がない。

ユウ 今年の竜王戦は、去年の豊島竜王VS羽生九段戦に続き、世間的にも非常に注目度が高いよね。僕はやっぱり藤井三冠が勝って、名実ともに将棋界の頂点に立ってほしいなと思っています。

コウジ 以前にも言ったけど、藤井一強時代は将棋界の衰退をまねくと思っているので、もうしばらくは混戦模様が見たいんだよね。なので、私は豊島竜王を応援していて、是非豊島竜王にはタイトル防衛してほしいと思っています。特に初戦のセルリアンタワーで豊島竜王がどういう序盤戦を繰り広げるかが注目です。

dlshogi の恐るべき強さ

dlshogi の序中盤が凄すぎて

最近、話題のディープラーニング系の将棋ソフト dlshogi を使い始めたのですが、あまりにも強くて驚いています。現在のコンピュータ将棋ソフトは既に人類を遥かに超越していますが、それでも dlshogi の特に序中盤がものすごくて、例えば従来型の代表的なソフトである水匠4などを大きく凌駕しているという印象を持っています。それは単に強いというだけでなく、より将棋の神様に近い手が指されているという印象です。

とにかく大局観がすごい。今までの将棋ソフトは何というか読みの力業で蹂躙するような印象でしたが、dlshogi は圧倒的な大局観で遥かなる高みから見下ろされている感じです。序盤の段階で大きな差がついてしまい、全く手出しができないという不思議な強さです。

5年前、囲碁Google DeepMind社の AlphaGo が世界トップクラスの棋士であったイ・セドル九段を4勝1敗で倒して世界中に激震を与えましたが、あのときの AlphaGoを見ているような感じに近いんですよね。あの当時、AlphaGo は人類には理解できない恐るべき大局観で的確な形勢判断を行い人類を圧倒していました。囲碁は陣地取りゲームですが、まだ序盤の段階で、陣地を計算し勝ちを読み切っていたのです。そのようなことは人類には不可能です。

将棋界は AlphaGo 以前からコンピュータソフトの強さが身に染みていたので dlshogi の強さにさほど驚きがないような気がしますが、dlshogi の序盤の強さは理解不能な感じで、もし初めてこれを見たら「あなたは将棋の神様か」と思う強さだと思います。

自宅のPCで dlshogi 試してみた

私のPCは CPUがAMD Ryzen 9 5950Xで、GPUNVIDIA GeForce RTX3060ti です。メモリは 128GBです。CPUはハイエンドと言っていいと思いますが、GPUはミドルクラスです。メモリ128GBは個人としてはかなり容量大きいと思います。

試しに、水匠4とdlshogi (第2回世界将棋AI電竜戦エキシビジョンバージョン) と戦わせてみました。秒読み10秒で、先後入れ替え10戦です。同じPCで対戦させていますし、時間も10秒と短いので参考程度ではありますが、下記の結果でした。

  先手 後手
dlshogi 5勝 1勝
水匠4 4勝 0勝

6勝4敗の結果ですが、衝撃的なのは dlshogi が先手全て勝っているということ。勝つ将棋は中盤で水匠4を抜き去るのがほとんどです。dlshogi側からみて水匠4が悪手を指し(水匠4側から見れば悪手ではないのですが)しばらくすると水匠4が反省して一気に評価値が悪い方向に振れる(反省する)というような勝ち方が多いです。しかも驚くべきことに後手でも1勝しています。その1勝はやはり中盤で dlshogi が水匠4を抜き去った将棋でした。

また、水匠4が勝利した4局のうち1局は終盤まではdlshogiが先行していたものの頓死して水匠4が勝利しました。dlshogiは終盤が従来型ソフトよりも弱いといわれていますが、まさにそこで負けた将棋でした。逆に言うと、序中盤だけならば、7勝3敗という結果です。

dlshogiは水匠4などに比べて点数のつけ方がはっきりしているのも特徴的です。例えばdlshogiが2000点と判断する局面が、水匠4では500点というようなことがよくあります。で、おそらくですが、水匠4の500点よりも、dlshogiの2000点がより正確な形勢判断ではないか、という気がするのです。

プロ棋士棋譜を dlshogi と水匠4で両方検討すると、今までとは違った景色が見えてきます。今までの将棋ソフトだと「序盤はそんなに差がなく、明らかな悪手があったわけではないのに、なぜかしばらくすると大きな差がついてしまっている。どうしてだろう? なんか評価値が信用できないなあ」と違和感がある時がありましたが、dlshogi だと「ああ、序盤の段階で既に形勢が悪かったんだな」ということが分かります。

dlshogi の登場は将棋界に大きな影響を与えるのは間違いない

もちろん dlshogi は完璧というわけではないです。このブログの過去記事でも紹介したことがありますが、タダ捨ての手などは評価が低いですし、従来型のソフトに比べると終盤力が弱いという欠点もあります。ただ序中盤があまりにも強すぎるので、欠点を十分カバーしている印象です。

将棋界も囲碁界も既にコンピュータソフトは人類をはるかに圧倒していますが、どちらかというと、後からコンピュータに抜かれた囲碁界の方がよりコンピュータに圧倒されている印象を受けています。それは AlphaGo や絶芸をはじめとするディープラーニング系のソフトが台頭しているからでしょう。ディープラーニングは人間の脳の仕組みを参考にしていることもあり、大局観が強いソフトに仕上がっています。大局観が強いということは、大袈裟に言えば、神様みたいな強さということです。人類には到達不能な大局観を持っており、人類との差が歴然としてしまったという印象です。

将棋界にも、人類が到達不能な大局観を持つソフトが登場したことで、研究のあり方含め様相が変わってくると思います。今まで以上に、序盤の段階で YES/NO がはっきりしてしまうので、将棋AIの重要度が今まで以上に増すのではないかと思っています。そして、今まで以上に人間ならではの独創性が通用しにくい時代が来るように思っています。それはある意味では悲しいことなのかもしれませんが、どうしようもないと思います。

竜王戦挑戦者は藤井二冠に決定(挑戦者決定戦第2局:藤井二冠 VS 永瀬王座)

4八玉は悪手ではなかった?

ユウ 藤井二冠が将棋界最高タイトルの1つ竜王位に挑戦することになりました。藤井二冠とうとうこのときが来たという感じですね。

kifulog.shogi.or.jp

コウジ 永瀬王座は残念だったなあ。振り返ってみると、藤井二冠の完勝というべき内容だったと思いますね。永瀬王座は後手番で藤井王位の相掛かりを受けて立ったけど、序盤で準備のない形になってしまったと言っていましたから。そうなるとそもそも戦型選択がよくなかったのかもしれないという話になってしまう。個人的にはやっぱり振り飛車が見たかったなあ。

ユウ 完勝とまでは言い過ぎじゃないの? 途中藤井二冠の評価値が互角に戻ったところあったじゃない?

コウジ 4八玉のところでしょ? その前の7四飛で評価値がかなり藤井二冠よりになったんだけど、推奨手は8三角だった。でも4八玉になって互角に戻ったんだよね。

ユウ そうそう。8三角は確かに打ちにくい手だなあとは思ったけど。

コウジ おそらく abema の将棋AIは CPU系だから互角の評価なんだろうけど、ディープラーニングの将棋ソフト dlshogi だと評価が全然違うんだよね。Bestは8三角で +1285 だったけど、次に評価値が高かったのが4八玉で +514だった。一方で、水匠4は Best は同じく8三角で +546 だったけど、4八玉は5番手の候補だった(+244)。つまり、4八玉は決して悪手ではない。むしろ玉を固めたいい手だったんだよ。そういうところを見ても、藤井二冠の完勝としか言いようがない。

豊島竜王はどう迎え撃つか?

ユウ 気が早いけど、豊島竜王との戦いは、王位戦の好調ぶりを見ると、藤井二冠が竜王位も奪取しそうな感じだよね。とうとう藤井1強時代が来るね、楽しみだなあ。

コウジ 奪取されると決まったわけではないよ。1つの大きな鍵は、叡王戦第5局だね。豊島叡王が防衛すれば風向きは全然違ってくると思うよ。王位戦を敗れたことで過密スケジュールから解放されたのは、不幸中の幸いと言えるよね。前年の竜王戦は、羽生九段を挑戦者に迎えて、どの局も非常に充実した素晴らしい内容の将棋だったからね。藤井二冠の神がかり的な強さは恐ろしいけど、豊島竜王竜王戦に合わせて今まで以上に練った将棋を見せてくると思っているよ。豊島先生にはまずは叡王戦を防衛して、竜王戦7番勝負を最高の状態でスタートして欲しいね。

竜王戦挑戦者決定戦第2局どうなるか?(藤井王位 VS 永瀬王座)

ユウ 今日は運命の日ですね。藤井王位が勝利すれば、竜王位挑戦が確定し、豊島竜王との7番勝負が決まります。ぜひ勝ってほしいです。

コウジ 豊島竜王王位戦挑戦では1勝4敗でタイトル奪取ならなかったが、叡王戦は2勝2敗のフルセット。竜王戦も藤井王位相手となると、5+5+最大7の17番勝負になる。豊島竜王としても、挑戦者が誰になるかはかなり大きいだろうね。僕としては永瀬王座がきっと1勝返してフルセットに持ち込んでくれると期待しているよ。

ユウ 永瀬王座は公式戦では藤井王位相手に1勝5敗だから、勝つのは厳しいんじゃないのかな?

コウジ 確かに一方的な結果ではあるけれど、永瀬王座が唯一勝利した王将戦リーグは、永瀬王座が後手番(四間飛車)だった。前局で先手三間飛車で敗れたけど、後手番だから厳しいとは言えないと思う。

ユウ 前局の先手三間飛車はびっくりだったね。

コウジ 永瀬王座は藤井二冠相手には振り飛車がいいと考えているのかもしれない。藤井二冠がデビューしたばかりのとき、非公式戦で炎の七番勝負というのをやっていたのは有名な話だけど、そのとき名だたるトッププロ(増田六段、永瀬王座、斎藤八段、中村七段、深浦九段、佐藤康九段、羽生九段。段位は現在のもの)相手に6勝1敗で騒然としたよね。そのとき唯一藤井二冠に星をつけたのが永瀬九段で、後手中飛車だった。永瀬王座は藤井二冠とは研究会仲間だけど、絶対に勝ちに来ると思う。ここで簡単に負けてしまうとは思えない。

ユウ 永瀬王座といえば、明後日から王座戦の防衛戦だよね(VS 木村九段)。ハードスケジュールだけど。永瀬王座も木村九段も受け将棋だから、どういう戦いになるか想像もつかないけど楽しみだね。

コウジ 永瀬王座はタイトル数個で満足するような棋士ではないと思うから、棋界のトップタイトルである竜王はもちろん狙っているだろう。永瀬王座がどういう作戦で挑んでくるか楽しみだね。後手番だから意表をついて横歩取りとかあるのではないか、と思っているよ。

王位戦(藤井王位 VS 豊島竜王)は4勝1敗で藤井王位タイトル防衛

封じ手の局面はAI的には互角だった?

ユウ 藤井王位が挑戦者の豊島竜王に勝利し、王位戦防衛しましたね。よかったです。これで棋聖に続き王位も防衛し二冠を堅持しました。

コウジ 豊島竜王は、封じ手の前から形勢が悪いと悲観していたみたいだね。一方で、コンピュータソフト的には、封じ手の局面は確かに少し先手には触れていたけど互角の評価だった。水匠4もdlshogiも3三桂をBestとしてそれぞれ128点、86点の評価だった。
https://kifulog.shogi.or.jp/oui/

ユウ 敗着とされる7五銀は勝負手だったのかな?

コウジ 確かにコンピュータソフトは、7五銀をかなり悪い手と評価していた。2二銀と王様が逃げる道を作る手を推奨していた。2二銀も豊島竜王は考えていたけど自信が持てない、というコメントだった。あくまで想像だけど、持ち時間の長い二日制は時間がたっぷりあるので、藤井王位の読みの深さを警戒していたのかもしれない。でも、2二銀だったら、いい勝負が見れたような気がするけどなあ。

ユウ ただ、普通の手を指しても、結局中終盤で藤井王位にうまく指されて負けてしまうと悲観していたのかもしれないよね。王位戦は既に3勝1敗の状況で、タイトル奪取には藤井王位に3連勝する必要があるから、強気な攻めに出たのかなあ。

コウジ なんか豊島竜王の感覚が藤井王位に狂わされていたような印象を受けましたね。もし豊島竜王がこの1局を勝っていれば、次の対局は9月で少し時間があくので、また流れも変わってきたと思うだけに残念でした。9/13に叡王戦第5局があるので、こちらはぜひ勝ってほしいです。

叡王戦(豊島叡王 VS 藤井二冠)はフルセットに持ち込まれ決着は最終局へ

1時間の長考の末に豊島叡王が放った手はAI的にも良い手だった?

ユウ 昨日の叡王戦第4局、藤井二冠残念でしたね。史上最年少三冠は先送りになってしまいましたが、最終局は藤井二冠に勝ってほしいです。

コウジ よくぞ豊島先生踏みとどまった、と思いました。叡王戦王位戦も背水の陣という相当なプレッシャーの中で、豊島先生らしい勝ち方をしたのがすごかった。

ユウ 確かに序盤の研究でリードし、隙のない中終盤で勝ち切る、いつもの豊島叡王らしい勝ち方でしたね。

コウジ 豊島先生は、最近は序盤でリードしても、藤井二冠の強さを警戒するあまりか、中終盤で仕損じてしまうことが多かったように思うけど、昨日の豊島先生は最後までリードを譲らず勝ち切ったのが大きいと思う。特に印象に残ったのが、叡王戦ブログにも記載のある▲2四歩。
https://kifulog.shogi.or.jp/eiou/

ユウ 豊島叡王が1時間近く長考していた手だね。

コウジ 観る将で素人の僕には意味が分かりにくい手だけど、Abemaで終局後に初手から解説していたのを見てなんとなく意味が分かってきたよ。
https://abema.tv/channels/shogi/slots/BNYGMGJobrY6rB

ユウ 同歩と取らせて王様の逃げ場所を狭める手だよね。藤井二冠はそれを嫌ってか、実戦では同歩ではなかったけど。

コウジ AI的には2四歩は全然評価されていないように見えたんだ。水匠4は8九香をBestとして1500点。2四歩は800点で、候補としては4番手だった。一方、最近話題のdlshogiも8九香をBestとして2600点だったが、2四歩は候補外(6番目以下)だった。
でもね、ここが面白いところなんだけど、実際にdlshogiに2四歩を打たせてみると2100点と良い点数に跳ね上がり、8九香は打ってみると2400点と少し点数が下がった。つまり、2四歩はかなりいい手だった可能性が高い。

ユウ それって興味深いね。dlshogiが読み抜けていたってこと?

コウジ 読み抜けとはちょっと違うのかなあ。dlshogiに代表されるディープラーニング系のソフトは、タダ捨ての手をあまり評価しないらしい。2四歩も候補手を増やすと7番手ぐらいに出ている。単純に評価していなかったんだろう。まあ、8九香で勝てるとAIは読んでいたからね。 

ユウ 8九香のAIの読み筋を見たけど、龍を捨てる手順は勇気がいるかなあと思ったけど。だからその手を選ばなかったのかな。

藤井二冠はタイトル戦で初めてフルセット持ち込まれた

コウジ 今まで、藤井二冠はタイトル戦では圧勝で、渡辺名人、木村九段を破ってきたが、勝ち方も 3-1(VS渡辺名人)、4-0(VS木村九段)、3-0(VS渡辺名人)とすごかった。特に渡辺名人をストレートで破ったのは驚愕だった。今回、初めてフルセットになったのは、やっぱり豊島先生の底力を感じたね。

ユウ それよりもさ、対局スケジュールが超過密でびっくりなんだけど。昨日対局して、今日移動日(名古屋⇒徳島)、明日から王位戦で2日間対局って凄くないですか?

コウジ 王位戦は現在3-1で、明日は藤井王位が先手番。豊島竜王は正直かなり厳しいけど、昨日の戦いを見ているからね。熱戦が期待できるから将棋ファンとしてはうれしい限りです。

藤井一強時代の到来で観る将ブームは衰退するか?

とうとう藤井一強時代の始まりか?

ユウ 明日(2021/8/22)は叡王戦第4局、運命の一戦ですね。もし藤井二冠が豊島叡王に勝利すれば、最年少三冠の記録達成、そして、事実上の藤井一強時代の到来です。ぜひ勝ってほしいです。

コウジ 最近の藤井二冠は強すぎますね。正直、もう誰も藤井二冠に勝てないのではと思っています。研究が深く番勝負で無類の強さを発揮してきた渡辺名人相手に完勝の内容でストレートに封じ込める。中終盤の粘りで藤井二冠を翻弄しかつて天敵だった豊島竜王を読みの力でぶっちぎる。超手数や千日手をいとわない「負けない将棋」で相手をねじ伏せる永瀬王座に食いついて勝ち切る。もう誰も勝てないと思うし、かつて羽生九段が実現した全冠制覇もおそらく2023年に実現するのではないかと思います。

ユウ 2023年に全冠制覇ですか? それあまりにも早くないですか?

コウジ これまでの藤井二冠の勝ちぶりをみていると、可能性は極めて高いと思います。恐ろしいのは、藤井二冠はだんだん強くなっていること。年間勝率9割もあり得ると思います。弱点がない。

ユウ 確かに藤井二冠には弱点がないけど、でも、時々負けているじゃない?

コウジ 藤井二冠も若さゆえの経験不足があるし、人間である以上ミスはする。特に一発勝負のトーナメントは負けてしまうことがあるかもしれないが、番勝負まで来れば、仮に1敗しても残りを勝てばいいから、藤井二冠にとって非常に有利。少なくとも番勝負で負けることは考えにくい。そしてポカも年々減っていっている。

ユウ かつて羽生先生が全冠制覇したときも、すぐにタイトルを奪取されたし、名人戦ではライバルの森内九段の方が先に永世名人になったし、羽生九段も無敵ではなかったよね。藤井二冠もそうなるのではと心配するけど?

コウジ それはコンピュータソフトが無かった時代だったからだと思う。当時は人間の知力と創意工夫だけで将棋の研究していた。コンピュータはデータベースとして活用することはあっても、将棋はあくまで人間の頭だけで研究していた。当時人間界最強の羽生九段に対しても、研究や工夫で、時には上回ることもできたんだと思う。

でも今は、人間よりも遥かに強いコンピュータソフトを教師とする研究が中心で、人間の創意工夫が生きづらい状況になっている。また、ほとんどのトッププロはコンピュータソフトで研究しているから、研究での差が出来づらい状況になっているように思う。そうなると、逆説的だが、今まで以上に棋士の読みの力が勝負を決めてしまう。つまり、現在の人間界で最強の読みの力を持つ、藤井二冠が勝つことになる。

ユウ コンピュータソフトが強くなかったことで、藤井二冠の強さがより強化されているということ?

コウジ そういうことだと思う。テクノロジーの進化が、その人間の持つ能力を最大化する方向に働くのが現代だと思う。だから、藤井二冠はAIを用いてますます強くなっていき、敵がいない状態になっている。

ユウ 藤井二冠の強さは、AIを巧みに使用していることもあると思うのです。例えば、DL(ディープラーニング)系の将棋ソフトも早くから採用しているようですし。PCの自作も得意なので、そういうところでほかの棋士と差がついている、というところもあるのでは?

コウジ 確かに藤井二冠がコンピュータと親和性があることは、強さの要因の一つだと思う。ただ、藤井二冠以上にAIを駆使した研究をしている棋士はいるけど、彼らが藤井二冠に勝てていないのは、やはり個人の能力の差(読みの力の差)が大きいのだと思う。

観る将ブームは今年をピークに衰退する?

ユウ こうやって藤井二冠が勝ち続けることは、将棋界にとってはプラスだと思うんだよね。すでに藤井二冠は国民的なスターだけど、全冠制覇となれば、かつての羽生フィーバーを上回る旋風が吹くと思うし。でも、君はそうは思ってないよね。以前さ「藤井将棋ディストピア」って言ってたじゃない。

コウジ 有名な「評価値ディストピア」をもじったんだけどね。藤井一強になった後、しばらくの間は、具体的には全冠制覇するまではマスコミも熱心に報道し続けるだろう。ユウのいう通り、すごいフィーバーが来るかもしれない。でも、将棋ファン、特に観る将はだんだん離れていくんじゃないかなあ。藤井将棋って、悪手が少なくAI最善手連発するのが快感で見ている人たちが多いと思うんだ。ただ、あまりにも強すぎて敵がいなくなると、エンターテイメントとして興ざめしてしまうような気がする。だから、個人的には観る将ブームは今年をピークにして衰退していくと思っている。

ユウ そうかなあ。将棋ファンや観る将って、藤井ファンだけじゃないじゃない? 他の棋士のファンもたくさんいるし。藤井二冠が勝ち続けることで、多くの人が将棋に注目すれば、将棋人口の増加に寄与するんじゃないの?

コウジ 確かにそういう側面はあるんだけどね、あくまで観る将的な立場でいうと、藤井一強時代になると、タイトル戦がつまらなくなるのは確実だと思っているんだ。誰がタイトル挑戦しようと、藤井先生が勝つよね、って感じになっちゃうと思うんだ。そうなると、観る将としては、将棋を観てもつまらないから離れていく人が増えると思うんだ。

ユウ なんか根拠が薄いような気がするけどなあ。

コウジ これはね、囲碁界をウォッチしていて思ったんだけど、2012年から2018年まで、日本の囲碁界は井山一強時代だったけど、観ている側からすると正直あんまり面白くなかったと思っているんだ。むしろ最近、芝野二冠や一力二冠が出てきてからの方が囲碁界は面白くなっている。将棋界も藤井一強より群雄割拠の方が面白いと思うんだ。

ユウ 藤井二冠のファンは一強時代になっても離れないと思うけどなあ。

コウジ そこはユウと意見が合わないとこだけど、今はね、確かに藤井聡太二冠ファンはたくさんいるけど、そのうち、すーっと引いていくことになると思っている。これは断言してもいいよ。だからね、今のうちに、藤井ブームが続いているうちに、将棋界は人気を継続させる策を練る必要があると思うんだ。

ユウ 君は心配し過ぎだよね。

コウジ 予想が外れてほしいのですけどね。だからまずは豊島叡王竜王)には、第4局を勝利してなんとか踏みとどまって、しばらくの間は、藤井二冠の壁であり続けて欲しいんだよね。永瀬王座も先日の竜王戦挑戦者決定戦は三間飛車の秘策が通用しなかったけど、残り2局を何とか勝利して欲しい。