laguwind’s blog

しばらくはジャンルを絞らず関心のあることを書いていきたいと思っています

dlshogi の恐るべき強さ

dlshogi の序中盤が凄すぎて

最近、話題のディープラーニング系の将棋ソフト dlshogi を使い始めたのですが、あまりにも強くて驚いています。現在のコンピュータ将棋ソフトは既に人類を遥かに超越していますが、それでも dlshogi の特に序中盤がものすごくて、例えば従来型の代表的なソフトである水匠4などを大きく凌駕しているという印象を持っています。それは単に強いというだけでなく、より将棋の神様に近い手が指されているという印象です。

とにかく大局観がすごい。今までの将棋ソフトは何というか読みの力業で蹂躙するような印象でしたが、dlshogi は圧倒的な大局観で遥かなる高みから見下ろされている感じです。序盤の段階で大きな差がついてしまい、全く手出しができないという不思議な強さです。

5年前、囲碁Google DeepMind社の AlphaGo が世界トップクラスの棋士であったイ・セドル九段を4勝1敗で倒して世界中に激震を与えましたが、あのときの AlphaGoを見ているような感じに近いんですよね。あの当時、AlphaGo は人類には理解できない恐るべき大局観で的確な形勢判断を行い人類を圧倒していました。囲碁は陣地取りゲームですが、まだ序盤の段階で、陣地を計算し勝ちを読み切っていたのです。そのようなことは人類には不可能です。

将棋界は AlphaGo 以前からコンピュータソフトの強さが身に染みていたので dlshogi の強さにさほど驚きがないような気がしますが、dlshogi の序盤の強さは理解不能な感じで、もし初めてこれを見たら「あなたは将棋の神様か」と思う強さだと思います。

自宅のPCで dlshogi 試してみた

私のPCは CPUがAMD Ryzen 9 5950Xで、GPUNVIDIA GeForce RTX3060ti です。メモリは 128GBです。CPUはハイエンドと言っていいと思いますが、GPUはミドルクラスです。メモリ128GBは個人としてはかなり容量大きいと思います。

試しに、水匠4とdlshogi (第2回世界将棋AI電竜戦エキシビジョンバージョン) と戦わせてみました。秒読み10秒で、先後入れ替え10戦です。同じPCで対戦させていますし、時間も10秒と短いので参考程度ではありますが、下記の結果でした。

  先手 後手
dlshogi 5勝 1勝
水匠4 4勝 0勝

6勝4敗の結果ですが、衝撃的なのは dlshogi が先手全て勝っているということ。勝つ将棋は中盤で水匠4を抜き去るのがほとんどです。dlshogi側からみて水匠4が悪手を指し(水匠4側から見れば悪手ではないのですが)しばらくすると水匠4が反省して一気に評価値が悪い方向に振れる(反省する)というような勝ち方が多いです。しかも驚くべきことに後手でも1勝しています。その1勝はやはり中盤で dlshogi が水匠4を抜き去った将棋でした。

また、水匠4が勝利した4局のうち1局は終盤まではdlshogiが先行していたものの頓死して水匠4が勝利しました。dlshogiは終盤が従来型ソフトよりも弱いといわれていますが、まさにそこで負けた将棋でした。逆に言うと、序中盤だけならば、7勝3敗という結果です。

dlshogiは水匠4などに比べて点数のつけ方がはっきりしているのも特徴的です。例えばdlshogiが2000点と判断する局面が、水匠4では500点というようなことがよくあります。で、おそらくですが、水匠4の500点よりも、dlshogiの2000点がより正確な形勢判断ではないか、という気がするのです。

プロ棋士棋譜を dlshogi と水匠4で両方検討すると、今までとは違った景色が見えてきます。今までの将棋ソフトだと「序盤はそんなに差がなく、明らかな悪手があったわけではないのに、なぜかしばらくすると大きな差がついてしまっている。どうしてだろう? なんか評価値が信用できないなあ」と違和感がある時がありましたが、dlshogi だと「ああ、序盤の段階で既に形勢が悪かったんだな」ということが分かります。

dlshogi の登場は将棋界に大きな影響を与えるのは間違いない

もちろん dlshogi は完璧というわけではないです。このブログの過去記事でも紹介したことがありますが、タダ捨ての手などは評価が低いですし、従来型のソフトに比べると終盤力が弱いという欠点もあります。ただ序中盤があまりにも強すぎるので、欠点を十分カバーしている印象です。

将棋界も囲碁界も既にコンピュータソフトは人類をはるかに圧倒していますが、どちらかというと、後からコンピュータに抜かれた囲碁界の方がよりコンピュータに圧倒されている印象を受けています。それは AlphaGo や絶芸をはじめとするディープラーニング系のソフトが台頭しているからでしょう。ディープラーニングは人間の脳の仕組みを参考にしていることもあり、大局観が強いソフトに仕上がっています。大局観が強いということは、大袈裟に言えば、神様みたいな強さということです。人類には到達不能な大局観を持っており、人類との差が歴然としてしまったという印象です。

将棋界にも、人類が到達不能な大局観を持つソフトが登場したことで、研究のあり方含め様相が変わってくると思います。今まで以上に、序盤の段階で YES/NO がはっきりしてしまうので、将棋AIの重要度が今まで以上に増すのではないかと思っています。そして、今まで以上に人間ならではの独創性が通用しにくい時代が来るように思っています。それはある意味では悲しいことなのかもしれませんが、どうしようもないと思います。